「新しいジャンルの本を読みたいな」とは思いつつ「つまらなかったら嫌だな」と思い、ついついお気に入りの作家の新作を選びがちなあなたに。ジャンルもテイストもバラバラな作品が集まったアンソロジーをオススメ。

北村 薫 宮部みゆき編
「名短編ほりだしもの」(ちくま文庫)


 アンソロジーといえば、特定のテーマ、ジャンルの縛りの中で複数の作品を集めたものをいいますが、このアンソロジーの縛りは、北村薫、宮部みゆきという名作家2人が読者に勧めたいと思ったということ。ただ一つ。

 両者の膨大なライブラリーから選ばれたのなら面白いに決まっているし、本当に作品のテイストも、ジャンルも、バラバラ、誰にお勧めしても必ず好みの作品、作家に出会えるはず。

もっというと、どの作品を読んでも

「こんな短編が読みたかったんだよなぁ。」

とすら思わせてくれる。

 しかも、そんな短編集がシリーズ化されていて、現在6冊発行されているんだから、こんなに幸せなことはない。

「名短編ほりだしもの」に掲載されている作家12人

  • 宮沢章夫
  • 片岡義男
  • 中村正常
  • 石川桂郎
  • 芥川龍之介
  • 志賀直哉
  • 内田百間
  • 里見弴
  • 久野豊彦
  • 尾崎士郎
  • 伊藤人譽
  • 織田作之助

何人、ご存知でしたか?
誰もが一度は名前を聞いたことがある作家から、初めましての面々まで、バリエーション豊かにセレクトされています。

 そこで、事前情報なしに知らない作家の作品を読み始めるのはちょっと辛いな、と思った。そこのあなた。

ご安心ください。

巻末に選者2人の解説対談がついています。

 ネタバレを含むので、本当はご法度だけど、本屋でこれを立ち読みしたら最後、買わずには帰れなくなっちゃいます。いつくかの作品についてお二人の対談を抜粋してみます。

選者2人の解説対談

宮沢章夫
「探さないでください」

電車の中で読むのは危険。ニヤニヤが抑えきれない脱力系エッセイ。

北村 ミステリ関係者としては、「探さないでください」がなんともいえなくてね。
ダイイング・メッセージはミステリだと非常によく出てくるものですから。死ぬ間際に「—-ネタバレのため自粛—-」。
宮部 いいからとっとと名前を言えと(笑)。
北村 こんなヤツ死んでもよかった(笑)。

北村 薫 宮部みゆき編
「名短編ほりだしもの」

中村正常
「日曜日のホテルの電話」
「幸福な結婚」
「三人のウルトラ・マダム」

モダンなユーモア小説。

宮部 いやあ。楽しかったです。
北村 ちょっとお目にかからないタッチでしょう?
—-割愛—-
宮部 どの作品もみんなぴかぴかっと明るいですよね。「幸福な結婚」は、「僕の家内だ、よろしく」ですね。これも楽しい。「英語なんぞ、今日も失敬しちゃってよ」と。
北村 モダンボーイたちの口調も、いま見ると面白いよね。

北村 薫 宮部みゆき編
「名短編ほりだしもの」

志賀直哉
「イヅク川」

不思議な情景が広がる、ちょーーー短編小説。総ページ数、なんと2P。

宮部 これは夢の話ですよね。
北村 芥川が「夢の話を書くのは難しい」と言っているんです。夢がいかにも夢として書かれているのは志賀直哉の「イヅク川」ぐらいだと。

北村 薫 宮部みゆき編
「名短編ほりだしもの」

 対談では掲載作品1つ1つに触れ、コメントをしています。あらすじではなく、読みどころや、作家の人物像、時代背景など、より深く作品について知ることができます。

新ジャンル開拓にいかがですか?

北村 薫 宮部みゆき編
「名短編ほりだしもの」(ちくま文庫)