二階級特進クラスにテクニックが突き抜けてしまった作家の長編小説。コニーウィリスの「航路」を読んで久しぶりに”あの、もどかしさ”を感じた。なかなかの長編っぷりに読むのをためらっていたけど、ヒューゴー賞を11回、ネビュラ賞を7回、ローカス賞を11回受賞しているSF作家の小説は読んで後悔するわけないんです。
航路(上)
コニー・ウィリス
航路(下)
コニー・ウィリス
コニー・ウィリス「航路」はあなたにおすすめ
- 臨死体験とは何か、この世とあの世の境目で人は何をみているのか。を突き止める認知心理学者と神経内科医のヒューマン・サスペンスを読みたい
- ヒューゴー賞を11回、ネビュラ賞を7回、ローカス賞を11回受賞しているSF作家の長編小説を読みたい
コニー・ウィリス「航路」あらすじ
メインテーマはNDE(near death experience)
near death experience=臨死体験。病気・事故などでいったん意識上死の世界をのぞいてから、生き返ったという体験。
認知心理学者のジョアンナは、NDE(臨死体験)の原因と働きを科学的に解明することを目的に、病院内の臨死体験者の聞き取り調査に奔走する日々を送る。
一方、神経内科医のリチャードは、被験者の脳に臨死体験そっくりの幻覚を誘発し、擬似NDEを人為的に引き起こす方法を発見する。これを使ってNDE中の脳の状態を記録するプロジェクトを立ち上げる。
リチャードはNDEに詳しいジョアンナに協力を求め、共に実験を開始する。
だが、被験者集めに苦労し、実験後の聞き取り調査もうまくいかない。思うように進まない実験に、とうとうジョアンナは自ら実験台になることを決める。
彼女がNDEで見たものは。。。
“水のように飲みやすい上等な酒”のような小説
『航路』を読みたいと思ったきっかけは、恩田陸がエッセイ「小説以外」でウィリスのテクニックを「うますぎて、そのうまさが透けて見えない」作家だ。と絶賛していたから。
『航路』まで読んで、初めてそのことに気付いたのも、『航路』は、単なるうまさの域を超え、もはや二階級特進くらいのレベルでテクニックが突き抜けてしまったため、再びテクニックが人目につくようになってしまったからだろう。
恩田陸「小説以外」
そんなこと言われたら、読まずにはいられないじゃないですか。
勝手に船旅の話かと思っていたけど、全く違った。病院が舞台です。
小説のテクニックうんぬんに関しては語れることは私にはありません。が、『航路』は「泣ける」とか「心揺さぶる」とか言われてますけど、「あっ泣かせにきたな」とか「あっ心揺さぶりにきたな」と感じさせない凄さがあります。
確かに涙が出るんだけど、こんなシーンで?と思う。
いわゆる感動超大作の、くどくどと感動的なシーンを描写し続けて、さぁみなさん、ここで泣いてください。ここがクライマックスですよ。って書き方じゃなくて。
コップの中に1滴づつたまり続けた水が、表面張力の限界を突破して、静かに決壊する。みたいな、そんなやり方で、泣かせに来るんです。
届けたいメッセージがあるのだけど方法がなくて
電話もメールも使えない隔離病棟に移された女の子が、あの手この手で、会いたい人を呼び出すシーンがたびたび登場する。
メッセージに気づいてもらえるかどうかはわからないけれど、相手に伝わることを信じて送る。
送られた相手は、彼女から届いた不可解なメッセージを『彼女からの呼び出し』と理解して駆けつける。
同じように様々なシュチュエーションに置かれた登場人物たちが、思いが伝わることを信じてメッセージを送り合うシーンが印象的。
スマホで簡単に連絡がとりあえる。LINEに既読がつくことで、メッセージが届いたことを確認できる。そんな生活が当たり前の私たちには、簡単に連絡がつかない、あの状況がもどかしくてたまらない。
物語の常識を大きく逸脱して始まる、第三部
なかなかに変化の少ない第一部、第二部を超えたら、「えっ、今から第3部?書ける?これ、着地点どーすんの?」的な怒涛の第三部が待っているので、ぜひ読んで欲しい。
コニー・ウィリスの二階級特進クラスのテクニックで「泣かされて」「心揺さぶられて」ください。
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